風の吹かない屋上で
その後も駿介はバイトのことや家庭のことを話し始めた。
父親が腰を痛めてしまい、仕事の頻度を減らさなければいけないこと。そうすると収入が減ってしまい、生活が苦しいこと。
またそれを俺や了平に言うことで気を遣わせてしまうのではないということ。
淡々と話しているように見えて、時々駿介は目を潤ませていた。
一通り駿介が話したあと、長い沈黙が続いた。
「さくらんぼ同盟!」
急に了平が立ち上がって叫ぶ。びっくりして俺も駿介も了平を見た。
「俺たちはみんな仲良くさくらんぼ同盟だ!」
了平はその場に座って深呼吸すると続けた。
「俺たちはずっと一緒だっただろ。駿介の家の事情も知ってたし、今更何か隠し事すんなよ。下の毛生えてきた時とか大騒ぎだったじゃんか」
へらへらと笑ってふざけているように見えて、実際は了平なりに深く考えた結果なのだろう。
今回の件では了平が1番駿介を邪険にしていたように感じられていたので、了平のこのセリフは俺を、駿介を安心させてくれた。
が、しかし。
「さ、さくらんぼ同盟なんだけどさ……」
駿介がばつの悪そうな顔をして唇を薄く開く。
「さくらんぼじゃ、なくなった。バイト先のコンビニの同い年の女の子と、その……付き合ってる」
俺も了平も顔を見合わせ、思わず口をもぞもぞさせた。
つまりあれか、とうとう駿介は脱さくらんぼしたわけで、その、俺たちかまだ超えていないハードルをひょいと飛び越えたわけで。
つまり、なんていうか、その。
「ど、どんなんだった?」
「え、あ、すごく、よかった」
「そそそそそれは何が」
「恥ずかしいんだけど。了平も翔太も寄ってこないで。怖い」
プライドをかなぐり捨てて、その後俺たちは駿介の脱さくらんぼエピソードを根掘り葉掘り聞いたのだった。