風の吹かない屋上で
帰りは了平のお母さんが車で俺と美由紀と駿介を送ってくれた。4人乗りの車なので了平は自宅で見送ってくれた。
車には了平のお母さんと、俺と美由紀と、駿介だった。
駿介は怪我はしていたけれど、家の前まで送ったとき、車が離れていくまでずっと笑顔で手を振ってくれていて、本当によかった。
美由紀はたもととの連絡に夢中になっている。さっきから携帯をずっと触っている。
「やっぱり、図書館で見たあの人はたもとくんだったんだ!」
「たもとは高1だから、美由紀より歳上だそ」
「見えないよなぁ。あの、壊れそうな感じ。あたしあの人の手や指が好き。素敵な人だと思う頑張って勉強したら同じ高校、行けるかな?」
たもとの家はものすごいスパルタだから美由紀がアタックしてもお家柄が跳ね返すんじゃないだろうか。
そう思ったことは言わないでおく。
たもとがあの家に囚われることはないのだ。次期当主がなんだ、たもとがやりたいようにやらせてやるのが家族のあり方ではないのか。
それに、たもとが笑って過ごせれば遥もきっと……。
「おにいちゃん?」
いつのまにか車は俺たちの自宅の前についていた。
「あ、うん……了平のお母さん、ありがとうございます」
「いいのよ。風邪に気をつけてね」
「大丈夫です」
「いつも、了平と仲良くしてくれてありがとうね」
ドアにかけようとした手が止まった。
「不器用な子でね。ちっちゃい頃はすごく泣き虫で、でも下手に干渉してもあの子のためにならないな思ってたの。不安だったけどね。
翔太くんや駿介くんみたいなお友達がいて本当によかったわ。大したことはできないけど、また遊びに来てちょうだいね」
突然の来客を風呂に入れてくれ、うどんを作って食べさせてくれ、服を貸してくれた了平のお母さん。
大変な時にそっと手を差し伸べるのが兄というもの、と言った遥のことを思い出した。
これもひとつの、家族のあり方なのだろう。
「ありがとうございます」
お礼を言って車を出た。家に入って服を着替えて自室の布団にもぐると一気に気が抜けてそのまま眠ってしまった。