魅惑の果実
運悪く、エレベーターの中は私たちだけで、少し険悪なムードが流れていた。


早く、早く!!


四階から降りるだけなのに、すっごく長い時間に感じた。



「今からもう一軒行くぞ」



エレベーターを降りると同時に言われた一言に、思わず固まってしまった。



「用意してこい」



初めて会って、しかも遅い時間に来た上にアフターって……なめてんの?


流石に段々苛ついてきた。



「ごめんなさい、この後は他のお客様と約束を入れてしまったので、また別の機会に宜しくお願い……」

「俺より優先する事があるってぇのかよ?」

「っ……」



いったぁ……っ。


腕を引っ張られ、勢いよく背中を壁にぶつけてしまった。


両腕を掴まれ、壁に押し付けられた。


顔ちかッ。


手首も痛い!!


死角になっている所為で、誰も気付いてくれない。


ヤダッ……キスされるッ……!!



「まるで盛った犬だな」



もうダメだと目をギュッと瞑った時、低く冷静な声が響いた。


まだ人通りも多く、騒がしいくらい賑わっているのに、その声は心地良いくらい頭の中に響いてきた。






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