魅惑の果実
フレンチのコース料理。


いい思い出なんて一つもない。


桐生さんと過ごす事で、嫌な過去を塗り替えられたらって思った。


それなのに父親という存在が今になっても激しく過去を思い出させる。



「今日はおとなしいな」

「そう? 雰囲気にのまれてるのかな。 桐生さんはこういうところでよく食事するの?」

「たまにな」



一人で?


一人なわけないか……。



「何かあったのか」

「……見たくない人見ちゃっただけ」



一緒に居ても居なくても父親の存在に振り回されてる自分が嫌になる。


妹にはいつも優しい父。


私だけが除け者で、一人孤独だった。


けれど不思議と愛される妹の事を妬んだことはない。


父に愛される事に価値が見出せないからかもしれない。



「桐生さんはお姉さんと仲が良いの?」

「仲が良いという程ではない」

「桐生さんのお姉さんだから、きっと綺麗な人なんだろうね」

「さぁ、どうだろうな」



お姉さんもこんなにクールなのかな?


もっと桐生さんの事、桐生さんの周りにいる人の事が知りたい。



「お! いたいた」

「え!?」



ノックもなしにドアが開き、知らない男の人がズカズカと部屋に入ってきた。


誰!?





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