魅惑の果実
「何だてめぇッ!!」

「うわっ」



春馬さんが勢いよく振り返り、腕を掴まれたままの私は身体がぐらつき転けそうになった。


手首マジ痛いッ。



「お前の様に下品な奴は視界に映るだけで不愉快だ。 さっさと失せろ」



春馬さんのお酒で赤くなっている顔が、更に赤くなっていく。


今にも血管切れちゃいそうなんだけど……。



「ちょっ……!!」



春馬さんが手を振り上げ、私は掴まれていた腕を振り払い間に割って入った。


降り下げられた腕の動きが凄くスローモーションに見えた。



「イッ、イテテテテテ……ッ!!」



……へ?


何が起こったの?


春馬さんの腕を、スーツを着た知らない男性が捻り上げていた。


いつの間に……。



「桐生(きりゅう)様、如何致しますか?」

「き、桐生!?」



さっきまでの威勢のよさは何処へやら。


春馬さんの顔がどんどん青ざめていく。



「そんな小者など放っておけ」

「畏まりました」



男性が捻り上げていた腕の力を弱めると、春馬さんはおぼつかない足取りで走って逃げていった。






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