魅惑の果実
逃げたって何も変わらない。


苦しさが増すだけ。


そんなのわかってる。


分かってても耐えられなかった。



「もう会いたくないの?」

「会いたいよ! 会いたい……でもっ……」

「でも、気まずい?」

「…………」



気まずいとは少し違う気がする。


でも今までと同じ様に顔を合わせる自信がない。



「その人は美月が高校生だと知りながら、デートをしたんだよ? それって年齢とか関係なく、美月自身の事を見てくれてるって事なんじゃないのかな?」

「私、自身……?」

「そう、美月自身。 話を聞いてると口数も少なくて、あまり感情を表に出さない人みたいだけど、それでも美月に接する彼はどうだった? からかってた? 子供だって馬鹿にした?」



私と一緒にいた時の桐生さん。


子供扱いされる時もあるけど、いつも温かくて、私の事を考えてくれてた。


怒ると怖いし、あの獲物を射抜くような目付きは冷たくて恐ろしく感じる時もある。


それでも離れられないのは、いつも私の事を考えての事だと心の何処かで分かってるから。



「違う……っ、桐生さんは、そんな人じゃないっ」





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