魅惑の果実
次の日もまたその次の日も、連日仕事帰り、もしくは休みの日時間をみて桐生さんのマンションに向かった。


コンシェルジュの人たちからは愛人ではなく、ストーカーだと思われてるかもしれない。


最初はちょっと気まずかったけど、今やそんな事はどうでもいい。


桐生さんに会えるなら、周りから何て思われてもいい。


あと数日で夏休みが終わってしまう。


出来ればその前に会いたい。


勿論お店でも桐生さんとは会えてなくて、私の所為で来ないのかな?


とも思ったけど、それはきっと自惚れでしかないんだと思うと、自分は何て恥ずかしい奴なんだろうと思った。


もう三時過ぎちゃう……。


今日も会えなかった。


エントランスを出て、真っ暗な中足を進めた。


高級車とすれ違い、咄嗟に顔を背けた。


これは癖かもしれない。


父親がいつどんな車に乗ってるか分からないから、夜はつい顔を隠してしまう。


こんなところにいるはずないのに……。



「美月」



えっ……。


振り返ると久しぶりに見る桐生さんの姿があった。


さっきの車、桐生さんの車だったんだ……。


たった数日会わなかっただけなのに、切なさで胸がいっぱいになった。





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