魅惑の果実
ずっと欲しかった温もりが今ここにある。


逞しい身体。


落ち着く香り。


全てが愛おしい。


顔を上げると涙が零れ、視界がクリアになっていく。



「お前はよく泣くな」

「桐生さんはいつも表情が変わらない」

「仕事柄だろうな。 だが、お前の前ではそうでもない」



それって特別って事だよね?


この人はサラッと私の喜ぶことを言う。


わざとなのか素なのかは分からないけど、どちらにしても私は喜ぶんだろうな。



「こんな子供でいいの?」

「早く大人になれ」

「桐生さんが大人にしてよ」

「後悔するなよ」

「うわっ!?」



いきなり桐生さんに抱き上げられ間抜けな声が漏れた。


こ、こ、これは……お姫様抱っこ!?


こんな風に抱き上げられたのは初めてかもしれない。


親にだってされたことない。



「桐生さん!?」

「暴れるな」



暴れるなって言われたって……。


ダイエットしとけばよかった。


絶対重いよ!!


恥ずかしいけど幸せで、桐生さんの首に手を回し抱きついた。


大好き。


本当に大好き。






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