魅惑の果実
第九話 行き場のない感情
土曜日も桐生さんのマンションに泊まった。


日中は一緒にいられなかったけど、夜は一緒にいられたし、それだけで十分だった。



「おっはよぉ〜!!」

「あ、おはよ……」

「ちょっと何々〜!? テンション低すぎぃ〜」

「朝はいつもこんなんでしょ」

「そうだった」



バッチリメイクの明日香は朝にも関わらず、満面の笑みで上機嫌だ。


私は気分が上がらない。


元々朝は強い方じゃない。


目が覚めた時既に桐生さんはいなくて、それも少し淋しかったけど、仕事だからしょうがない事も分かっていた。


私の気分を落ち込ませているのはそれが原因じゃない。


一通のメールが届いていた。


差出人は父親だった。



「変なところなぁい?」

「可愛いんだから、心配しなくて大丈夫だよ」

「本当にそう思ってる!? 健人君の事だから女の子のファン凄そうだよね……」

「明日香が一番可愛いよ」

「あははっ、美月ありがとっ」



“来週の土曜日は家に帰ってこい”


メールはその一言のみ。


私の都合なんかお構いなし。


いつだってそう。


あの人は私を物としか思っていない。





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