魅惑の果実
座るべきか、他の子をつけてもらうべきか考えていると、桐生さんと目が合った。



「鬱陶しい。 座るか出て行くかハッキリしろ」

「は、はい……では、あの……失礼します……」



恐る恐る桐生さんの向かい側の丸椅子に座った。



「ブランデーはお水割りで宜しいですか?」

「あぁ」



……シ〜ン…………。


会話が見つからない。


よりによって何でVIPルームなの!?


しかもチョー視線感じる。


水割り作るのにこんなに緊張したの初めてだよ。



「お、お待たせしました」

「好きな物を飲め」

「……有難うございます」



室内のベルを鳴らすと黒服が入ってきて、私はカクテルを頼んだ。


またしても室内に静寂が戻る。


あぁーあぁー……気まず過ぎるぅぅぅ……。


ーコンコンコン。



「失礼致します」



えっ!?


カクテルを置くだけなのに、黒服の手がめちゃくちゃ震えていてビックリした。


店長といい、黒服といい、今日どうしちゃったの!?


部屋出ていく時なんて、声裏返っちゃってるし……。



「桐生さん、いらっしゃいませ。 ご一緒に頂きます」

「あぁ」



グラスがぶつかる小さな音がやけに大きく聞こえた。





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