魅惑の果実
桐生さんの手が離れ、首を傾げた。



「いいと言うまでここにいろ。 音を立てるな。 声も出すな」

「え? それってどういう意味?」

「言った通りだ。 絶対勝手に出てくるな」



それだけ言うと、何の説明もなく桐生さんは出ていってしまった。


え?


マジ何?


何事!?


わけわかんないけど、言われた通りここにいた方が良さそう……。


はぁ……理由くらい説明してくれてもいいのに。


未だに桐生さんの事がよくわからない時がある。


謎だらけ。


仕事の事も怖くて深くは突っ込めない。


女関係も怖いけど……。


湯船に肩まで浸かり、頭を後ろに倒した。


湯気で少しもやっとする天井。


お風呂の天井も広い。


やっぱ桐生さんは只者じゃない。


豪華なマンションに高級車、そして何処に行ってもVIP待遇……それに店長の桐生さんに対するあの腰の低さは半端じゃない。


私の大好きな彼は不思議な人。


平然と銃をぶっ放し、何食わぬ顔で残酷な事を言う。


それでも好きな気持ちはなくならない。


大きくなるばかり。


それはきっと、謎めいた魅力と甘く妖艶な雰囲気に魅了されているから……。





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