魅惑の果実
連れてきてくれたのは、ホテルのレストランだった。


海を一望できるテラス席に案内され、更に気持ちが高ぶる。


潮風が心地良い。



「顔が緩みっぱなしだな」

「だって嬉しいんだもん! 本当の事を言うと、桐生さんとこんなところに来られるなんて思ってなかった」

「お前が望むなら、何処にでも連れて行ってやる」



桐生さんの微笑みには、太陽だって敵わない。


凄く眩しくて、温かい。


私だけに向けられた笑顔。



「桐生さんと一緒だったら何処でもいい。 家でも公園でも何処でも……何処でもいいよ」

「お前は可愛いな」

「桐生さんの前でだけね」



フッと笑うと桐生さんはアイスティーを一口飲んだ。


本当だよ?


桐生さんの前だから、安心して女の子でいられるんだから。


何もかも委ねてしまいそうになる。


でもそれはきっと桐生さんの重荷になってしまう。


ただでさえ忙しい桐生さんに今の私がしてあげられる事は、邪魔にならないようにする事。


だから、私はギリギリのところで耐えなきゃいけない。


桐生さんの中で私自信が悩みの種になってしまわないように……。





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