魅惑の果実
第二話 甘い誘惑
*****



ん〜……。


んんん〜……。



「わっかんないよ〜」

「さっき解いたばっかりでしょ」

「イダっ」



デコピンされ、私は床にゴロンと横になった。


夏休み、週に二回明日香のお姉ちゃんの美香ちゃんが、わざわざ寮まで勉強を教えに来てくれることになっている。


なんてったって有名大の法学部の美香ちゃんの頭の良さは、半端ない。



「どうしちゃったの? 今日は集中力がないじゃない」

「ごめんなさい」

「少し休憩しましょうか」



そう言うと美香ちゃんは腰をあげ、キッチンの換気扇を回し、その下で煙草を吸い始めた。


集中出来てないのは自覚してる。


理由もチョット分かってる。


あれから何度か桐生さんとはお店で会った。


咲さんが席につく迄の本の僅かな時間、二人で話をする程度。


今では桐生さんの事は怖いとは思わない。


偉そうで感じ悪いところは相変わらずだけど。



「美香ちゃんさぁ、お店のお客さんでこの人いいなぁ〜って思う事ないの??」



美香ちゃんは煙草を片手に驚いた顔を向けた。


ぷっと吹き出し、煙草を灰皿に押し付けた。



「あはははっ、ないない! 私の働いてるお店は年配の太客が多いから、パトロンとして考える人はいるけど、そういう対象として考える人はいないかなぁ」






< 24 / 423 >

この作品をシェア

pagetop