魅惑の果実
え……?


誰……?


写真に写っている女性は、柔らかい笑みを浮かべている。


透き通る美しさ……その言葉がピッタリ当てはまるくらい綺麗な人。


もしかして、桐生さんの元カノ?


どうしてこんな写真が本に挟まってたの?


偶然?


それとも……。



「っ……」



ヤバ……ッ。


涙が溢れそうになり、咄嗟に上を向いた。


それでも溢れ出てくる涙をどうする事も出来なくて、目尻からツーっと流れてしまった。


写真を本に挟み、おもいきり元の場所に本を戻した。


涙を拭って逃げるように書斎を飛び出した。


まだあの女性の事が好きなのかな?


私の考えすぎ?


家族とか親戚のお姉さんかもしれない……。


そう思いたいのに、そうは思えなかった。


もしそうだとしたら、きっとあんなところに挟む筈ない。


桐生さんの今の彼女は私な筈なのに、何故か写真の女性に負けている気がした。


女性の影を匂わさない桐生さんが写真を残してた……特別な女性なんだと思うには、それだけで十分だった。





< 267 / 423 >

この作品をシェア

pagetop