魅惑の果実
「今日は何時に終わるんだ?」

「今日は二時に上げてもらう予定だけど……何で?」

「終わったら連絡しろ。 連れて帰る」

「い、いいの!?」

「嫌なら一人で寮に帰れ」

「嫌なわけないじゃん!!」



元々自分で桐生さんのところ行こうと思ってたぐらいだし、嫌なわけない。


桐生さんから一緒に帰ろうなんて珍し過ぎる。


嬉しいんだけど、怖いというか不安というか……取り敢えずなんとなくモヤモヤする。



「でもまだ一時間以上あるけど大丈夫? もし疲れてるなら先に帰って寝ててもいいよ?」



本当は寂しいから一緒に帰りたいけど……。


フッと笑った桐生さんの顔を見てドキッとした。



「そうしてほしいならそうするが?」

「……一緒に帰る」



どうせ私の気持ちなんて見透かされてる。


改めて自覚するとなんだか恥ずかしくなった。



「桐生さん!!」



息を切らして部屋に入ってきた咲さん。


今日は桐生さんと乾杯する時間すらなかった。



「桐生さん、失礼します」



頭を下げて部屋を後にした。


回を重ねれば重ねるほど、咲さんが現れる時間が早くなってる気がする。


内心イラッとしたけど、深呼吸をして無理矢理気持ちを切り替えた。





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