魅惑の果実
車の中でも抱っこされたまま桐生さんにしがみついている。


涙は止まったけど、顔が上げられない。



「俺の席以外で変な飲み方はするなと言っていた筈だが?」

「あんな汚いやり方……っ、許せなかった……」

「感情的になってもいい事はないと学習しているだろう」

「それでも!! それでもっ……許せないものは許せない……見て見ぬ振りなんて出来なかった……」



身体を離して桐生さんの顔を見た。


怒っているわけでもなく、呆れているわけでもなく、いつもの涼しい顔をしている。


頬に桐生さんの大きな手が触れ、胸が高鳴る。



「俺はお前以外の人間がどうなろうと知った事じゃない」

「…………」

「あまり心配させるな」



涙が溢れた。


桐生さんが親指の腹で涙を拭った。


その手に頬を擦り寄せ目をつぶった。



「ンっ……ふ……っっ」



唇が重なり、口付けが深くなっていく。


心が落ち着いていく。






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