魅惑の果実
何も言えなくて、ギュッと桐生さんにしがみついた。



「どうした? 何も言い返してこないなんて珍しいな」

「……ずっと、誤解してた。 咲さんと昔付き合ってたんじゃないかって……それに、写真の女の人の事も疑ってた……ごめんなさい」

「それでいい。 疑う事を止めるな。 お前は直ぐに相手を信じすぎる」



顔を上げ、桐生さんの顔を見つめた。


穏やかな顔をしていて少し腹が立った。



「桐生さんの事は疑いたくない。 信じたい……これからはもっと、もっと信じたい。 だからそんな事言わないで……」

「それならもうグダグダと余計な事を考えるな。 今の俺だけを見ていればいい。 それに、言いたい事があるなら溜めずに何でも言え。 お前は俺の女だろう?」



俺の女……。


桐生さんの口からハッキリした言葉を聞いたのは初めてで、嬉しいような恥ずかしいようなとにかくドキドキした。



「じゃあもう遠慮しない。 怒られても怒鳴られても聞きたい事はちゃんと聞く」

「あぁ、それでいい」



ほんの少し伸びをして突くようにキスをした。


いつの間にか涙は止まっていて、気付けば顔が緩んでいた。





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