魅惑の果実
桐生さんも私みたいに悪夢にうなされた事とかあるのかな?


今は?


何も感じない?



「桐生さんには怖いものって無いの?」

「そんなものはない。 今はな」

「今は?」



「美月がいなくなる事」とか言ってくれればいいのに。


まぁ、そこまで求めるのは私のワガママなのかな?



「私は桐生さんと離れ離れになるのも怖いよ」

「俺はお前が生きてさえいればそれでいい。 その為なら何だってしてやる。 恐るとしたらお前を喪った時の俺自身だ」



そっか。


桐生さんは私の存在自体を大切にしてくれてるんだ。


この人は冷めているようで情熱的で大きな愛で包み込んでくれている。



「私もそうかも。 桐生さんを喪ったら壊れちゃいそう。 私の知らないところで危ない事してるだろうし、毎日気が気じゃないんだよ?」

「お前は何も心配せずにただ笑っていればいい」

「んっ……」



首筋に柔らかい感触。


小さく音を立てながら唇が首や肩、背中に移動していく。


響く自分の声が恥ずかしくて、咄嗟に手で口を押さえた。


のぼせてしまいそう。





< 296 / 423 >

この作品をシェア

pagetop