魅惑の果実
明日香が買ってきてくれた妊娠検査薬。


それを見ても自分の置かれた状況を理解出来なかった。


検査薬なんて今まで使った事がなくて、明日香が説明書きを読んでくれた。


側にいるのに、上手く聞き取れなかった。


ボーッと頭が働かないまま検査薬を使った。


結果が出るまでの時間が凄く長く感じた。


私はソファーに座って膝に顔を埋めて縮こまっていた。


そんな私の背中を優しく摩ってくれる明日香。


一人だったらパニックになっていたかもしれない。



「美月……」



明日香の声に肩がビクッと飛び跳ねた。


怖くて顔を上げられない。



「線、出てる……」



明日香の言葉に愕然とした。


信じられない気持ちで、恐る恐る顔を上げた。


検査薬には綺麗に線が入っていた。



「陽性……?」

「…………」



明日香と目が合い、これは現実なんだとやっと理解した。


困惑した表情で言葉を詰まらせている明日香。


こんな明日香を今まで見た事がない。


涙が次々とこぼれ落ちていく。


明日香は泣き止まない私の体をギュっと抱きしめてくれた。


明日香がいてくれて本当によかった。





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