魅惑の果実
お店に着いてからも、仕事に身が入らなかった。



「莉乃ちゃん、大丈夫?」

「あ、はい!」

「そう、ならいいんだ」



この短時間で何度小西さんに心配されたか分からない。


自分でもどうしようもなくて、泣いてしまいそうだった。


桐生さんと咲さんが二人で居るところが頭から離れない。


もうヤダ……。


何であんな人好きになっちゃったんだろう。


最初から難しい恋だって分かってたのに……分かってたのに、意識しないなんて出来なかった。



「お話中失礼致します。 莉乃さん、お願いします」



店長に声をかけられ、思わずキョトンとしてしまう。


え?


私?



「莉乃ちゃんいっちゃうんだね。 それなら俺は帰ろうかな」

「え!? そんな! 何かの間違いだと思いますから居てください!!」



小西さんの驚いた顔を見て、やってしまった……と思った。


俯く私の頬に小西さんの指先が触れる。



「待ってるよ。 莉乃ちゃんが戻って来るまでずっと待ってる」

「小西さん……ありがとうございます」



小西さんに頭を下げ、私は席を立った。


頬に触れた小西さんの指の感触がなくならない。


小西さんの事を好きになっていたら、今みたいに辛い気持ちになる事はなかったかもしれない。





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