魅惑の果実
話し終えて暫くはお互い無言だった。


お庭に繋がる大きなガラス窓。


少し開いた隙間から笑い声が漏れ、リビングに響いている。



「……今からでも遅くない。 政臣さんに話なよ?」

「勝手に産んでおきながら、今更責任取ってって言えって? そんなの無理だよ」

「責任も何も、二人の問題じゃないか。 それに、もう咲さんの問題は片付いたんだろ? それなら美月は何も迷う必要はないだろ?」



翔が言ってくれてる事はよく分かる。


それでもやっぱり、今更桐生さんの前に姿を現すなんてできないよ。


勝手に別れを選んで、勝手に子供を産んで……私にとっては大切な子だけど、必ずしも桐生さんにとってそうとは限らない。



「おかぁ〜さん!! 見てぇ〜〜!!」

「帝! 振り回したら危ないでしょ!!」

「はぁ〜い!」

「まったく、もう……ほら、私たちも行こう」

「行こうって、まだ話しは……」

「今いくら話したって気持ちは変わらないよ。 だから今はとにかく花火を楽しもう?」



翔の手を取り無理矢理引っ張った。


急ぎ足でお庭に向い、三人に混ざって花火に火をつけた。





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