魅惑の果実
案内されたVIPルームに入って、思わず足を止めてしまった。


涼しげな瞳と視線が絡む。



「座らないのか?」

「…………」



何で?


何で桐生さんがここにいるの?



「莉乃」

「っ……!」



名前を呼ばれて我に返った。


今は顔も見たくないくらい気持ちが混乱してるのに、実際こうして会ってしまうと離れたくなかった。



「失礼します」



いつもの様にテーブルを挟んで、桐生さんの目の前の丸椅子に腰掛けた。



「お水割りで宜しいですか?」

「あぁ」



馬鹿みたいに緊張する。


少しでも気が緩んだら、泣いてしまいそうだった。



「お待たせしました」

「好きなものを頼め」



私は首を横に振った。


すると眉を顰める桐生さん。



「お客様を待たせてるから、そう長くは居られないの。 私もお水割り頂きます」



いつもはカクテルを頼んでるけど、今日はそうしなかった。



「咲さんもお休みだから、桐生さんも早く帰るでしょ?」



桐生さんの目を見られなくて、私は視線を落としたまま自分の水割りを作った。





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