魅惑の果実
「せっかくだけど、他の人に頼んで。 私はできない」

「そう言われるって思ってたよ。 俺たちは長期戦で頑張るよ」

「何度言われても答えは変わらないからね」

「私たちも変わらないよ。 私も誠治君もお姉ちゃんと帝に式に出てもらいたいから」



帝の頭を撫でると、帝は首を傾げた。


私たちが何の話をしているのかさっぱりって顔をしてる。


帝には何の罪もない。


それなのに、私のせいで普通の家庭とは無縁の生活をさせてる。



「今日は帰るね」

「ん、分かった」

「もう帰っちゃうの??」

「あぁ、またな」



誠治は寂しそうな顔をする帝の頭をクシャッと撫でた。


私たちは美羽たちを玄関で見送った。


ドアを閉め、部屋の中はテレビの音。


帝をギュッと抱きしめた。



「どーしたの?」

「ごめんね」

「泣いてるの? ねぇ、おかぁさん? どっかイタイの?」

「んーん……もう少しギュッとさせてくれる?」

「僕もギューする!!」



帝の小さな手の感触が背中から伝わってくる。


幸せだけど、今の生活に後悔がないと言えば嘘になる。


けど、今考えてもあの時の決断以外に方法は無かったとも思う。





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