魅惑の果実
桐生さんは咲さんのお客様。


咲さんが休みなのに何で来たかは分からない。


ただの気まぐれ?


それとも暇潰し?


分からない。


分からないけど、咲さんと一緒にいない事に少しだけホッとした。



「あっ……!!」



乾杯しようとグラスを持つと、いきなり桐生さんに腕を掴まれグラスが倒れてしまった。


手首から伝わる桐生さんの温もり。


いつもの鋭い視線を向けられ、落ち着かない気持ちになる。



「あのっ……ごめんなさい。 直ぐに拭くから手を離し……」

「待たせてる客は誰だ?」

「桐生さんには関け……」

「小西だろう?」

「っ……」



小西さんの名前を口にした桐生さんの瞳は、今まで見たことがないくらい冷たかった。


何でそんな目をするの?



「どうなんだ?」

「……桐生さんには関係ないでしょ」

「お前はあの男がどういう男なのか知ってるのか?」

「小西さんは優しくて紳士で、凄く素敵な人です」

「はぁ……」



ため息を吐かれ、胸にムカつきが広がる。



「お前は何も分かっていない」



何なの!?


どういう人かどうかわかんないのは、小西さんじゃなくて桐生さんの方じゃん!!





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