魅惑の果実
けど顔を見る勇気はなくて、彼の胸に顔を埋めた。



「帰ったんじゃなかったの?」



彼の胸元のシャツをギュッと掴むと、彼は抱きしめる腕に力を入れた。


この腕の中の感覚を忘れた事はない。



「ここで見ていた」

「え……?」



バッと部屋を見渡すと、たくさんのモニターが設置されていた。


フロアや各VIPルームの映像、そして音声が流れている。


嘘……。



「全部聞いてたの!?」

「あぁ」



何か問題でも?と言わんばかりの顔をされ唖然となった。


そんな私の頬を、桐生さんは親指の腹で撫で下ろし、顎をクイっと掴み上げた。


その指から、視線から逃げる事が出来なかった。



「盗み聴きなんて……悪趣味……ここで見た事聞いた事は全部忘れ……」

「俺に聴かせたいが為に、あいつは美月に全部ぶちまけろと言ったんだ」

「それっ……大雅さんは部屋にカメラ付いてるって知ってたの!?」

「あぁ、知っている。 俺が部屋を出て直ぐにメールを送ってきた。 モニタールームで様子を見ていろとな」



何それ……全部大雅さんに仕込まれてたってこと!?


結局桐生さんには何も言わないなんて選択肢、私にはなかったって事じゃない!!





< 395 / 423 >

この作品をシェア

pagetop