魅惑の果実
桐生さんの手を振り払い、立ち上がった。



「乾いたおしぼり頼んでくる」



このまま部屋を出て、別の女の子をつけてもらおう。


本当はお客様を一人にするのはルール違反。


だけどこれ以上一緒にいたら、仕事どころじゃなくなってしまう気がする。



「わざわざ出て行かなくとも、ボタンを押せばいいだろう」



後ろからの声に、私は足を止めた。


ドアノブを握る手に力が入る。



「ドレスが濡れちゃって……着替えたいから……」



部屋を出て店長のところへ行くと、驚いた顔をされた。



「莉乃!? 桐生さんは!?」

「水割り零しちゃって……すみませんが、乾いたおしぼりお部屋までお願いします」

「零した!? 桐生さんにかけたりしてないだろうな!?」

「……あの、きっと怒ってると思うので、他の子をつけてもらえませんか?」



顔を俯かせお願いすると、頭上から大きなため息が降ってきた。



「分かった。 他の女の子をつけるから、莉乃は着替えたら小西さんの席に戻れ」

「すみません……」



私は逃げるようにロッカールームへ向かった。





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