魅惑の果実
「美月の傷に比べればこのくらいどうって事はない。 ……瞳に何を言われた?」

「…………」



言葉に詰まった。


桐生さんに頭を撫でられ、目を伏せた。


もう隠す必要はないんだよね?


もう話していいんだよね?


話す事はないと思っていた昔の話をちゃんと自分の口から話す覚悟を決めた。


桐生さんは口を挟むことなく、私の話をただ静かに聞いてくれていた。


時折感極まって泣いてしまいそうになると、頭を抱き寄せ撫でてくれた。


話をしながら色んな事を思い出した。


どれもついこの間の事のように思える。


ここ最近は昔話をする状況があった所為か、今こうして話をしていると、漸く気持ちの整理がついてきた様なきがする。


話し終えると、寝室は静寂に包まれた。


話したい事は話せた……と、思う。



「本当にすまなかった。 帝の事も、本当に大変だっただろう?」

「政臣は悪くない! 私が勝手に決めちゃったから……だから、謝らないで……」



色んな事が一気に起こりすぎて視野が狭くなってしまった私の責任。


政臣の事を責めた事は一度もない。





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