魅惑の果実
明日香のお家を後にして、帝と手を繋いで駅まで歩いた。



「ねぇ、帝」

「なぁに?」

「家族が増えたら嬉しい?」

「……おかぁさんが居ればいい」



帝の不安そうな声。


下を向いているから表情が見えない。



「ちょっと公園に寄って帰ろうか」

「うん」



途中にあるそんなに大きくない公園に立ち寄った。


それでも家族連れや小学校低学年くらいの子供たちが遊んでいて、賑わっている。


私は帝と二人で木のベンチに座った。



「お父さんと会いたい?」



帝は俯いたまま首を横に振った。


今迄帝に父親の事を聞かれた事はない。


幼いながらに我が家は他の家とは事情が違うと分かっていたんだと思う。



「よいしょっと」



帝を抱き上げ、向かい合うように膝の上に乗せた。


それでもまだ顔を上げようとしない。



「ごめんね……たくさん寂しい思いさせてるよね」

「寂しくなんかないよ! おかぁさんがいるもん!!」

「そっか、ありがとう。 でもね、お父さんが居たらもっと楽しくて幸せかなって思ったんだ」





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