魅惑の果実
何度話をしても、桐生さんの私生活は見えてこない。


私生活どころか、仕事の事もあやふや。


女関係もどうなってるんだろう……たくさんいるんだろうな。



「桐生さんはお仕事夏休みとかないの?」

「俺はいつも通り仕事だ。 そういうお前はどうなんだ?」

「私は……あはは、私もいつも通りかも」



私は休みの時の家族旅行に参加しない。


参加しないというか、お父さんから声をかけられたことすらない。


家族の楽しい思い出なんて一つもない。



「何処か行きたいところはないのか?」

「行きたいところ? んー……海が見えるところ」

「海が好きなのか?」

「うん! でも夜は嫌いかな。 何か怖いしさ」



夜の海は見てると呑み込まれてしまいそうで、凄く怖い。


日が出てる時はあんなに綺麗なのに。



「今度連れてってよ」



冗談っぽく言ってみた。


無理な事はわかってるから。



「気が向いたらな」

「絶対向くよ!!」

「お前は本当に可笑しな奴だな」



こうして笑いかけてくれるだけでいい。


他には何も求めない。


だから、変わらず笑いかけて欲しい。





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