魅惑の果実
このまま時間が止まってしまえばいいのに。


とにかく幸せだった。


桐生さんと一緒にいる時間は。


夢の様な時間で、思わず仕事中だということを忘れてしまう。



「桐生さんは子供の時からそんな感じなの?」

「そんな感じ、というと?」

「んー……クール?」

「俺の事をそう捉えているお前は、まだまだ子供だな」

「えぇ〜、それどういう意味? 相変わらずムカつ……」



ヤバ!!


流石にムカつくはダメだよね……。



「遠慮するなと言っているだろう」

「いや、でも……流石にね……今のはごめんなさい」

「お前に謝られると気色が悪い」

「人がせっかく素直に謝ってんのにぃ〜」



む〜もう謝ってやんない。


こんなやり取りをしていると、自分は桐生さんにとって特別な存在なんじゃないか……そんな錯覚に襲われる。


ーコンコンコン。



「失礼致します」



丁寧にお辞儀をして部屋に入ってきたのは店長だった。


私の横で腰を屈めた店長にメモを渡された。





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