魅惑の果実
ドキッとした。


まさか小西さんの口から桐生さんの名前が出てくるなんて……。



「殆どお見かけしませんけど……」

「席についた事は?」

「挨拶程度なら……」



なに?


どうしてそんな事を聞くの?



「そう、良かった」

「え?」



それどういう意味?



「桐生という男に近づかないでほしい」

「仕事の時はワガママ言えませんから……」

「それでも、彼の席には着いて欲しくない」



やめて。


そんな事言わないで。


私はこの場所でしか桐生さんと一緒にいられないの。



「小西さんがそんな事を言うなんて珍しいですね」

「知らないみたいだから教えておくよ。 桐生という男は裏社会で幅を利かせている男だよ。 危険な事に巻き込まれて欲しくないんだ」



え?


ただの経営者じゃないの?


嘘。


だって……桐生さんはあんなに優しいのに……。


でも確かに、桐生さんと初めて会った時、一緒にいた客が桐生さんの名前を聞いて慌てて逃げていった。


本当は恐ろしい人なの?


どうして私はこんなにも桐生さんの事が分からないんだろう。





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