魅惑の果実
知りたい。


もっと知りたい、桐生さんの事。


私、やっぱり小西さんとは……。



「莉乃、今日お店終わってから空いてる?」

「え……あの、えと……もしかしたらアフターになりそうなんです」

「そっか。 ならしかたがないよね。 もしアフターなかったら俺と過ごしてくれる?」

「うん、勿論」

「アフターになっても終わってからでいいか連絡ちょうだい? やっぱり少しでもいいから会いたい」

「あ、はい、分かりました」



私はいつからこんなに勝手に笑顔が出るようになったんだろう。


子供の頃からかもしれない。


早く桐生さんのところに戻りたい。


そばに行きたい。


私は桐生さんの事が好きで堪らない。



「俺はそろそろ帰るよ」

「お家に帰るんですか?」

「いや、知り合いの店に寄って帰るよ」



小西さんを下まで見送り、タクシーに乗る瞬間、触れるだけのキスをされた。


笑顔で手を振って見送り、小西さんの乗るタクシーが見えなくなった瞬間、私は唇を拭った。


何度も何度も……。


ヒリヒリする唇に指先で触れ、泣きそうになりながらもお店に戻った。





< 58 / 423 >

この作品をシェア

pagetop