魅惑の果実
桐生さんのいるVIPルームに戻ると、まだワインを飲んでいる桐生さんと目が合った。



「た、ただいま……」



ジーっと顔を見られ、緊張が走る。


化粧直しもしたし、髪型もチェックしたし……変なところなんてないよね?



「莉乃、ここに座れ」

「え……うん……」



言われるがまま桐生さんの隣に腰掛けた。


いつもは正面から見ている桐生さんの顔。


横顔をこんなにまじまじと見たのは初めて。


首筋がとてもいやらしくて、ぞくっとした。



「何かあったのか?」

「え? いや、何もな……」

「泣きそうな顔をしている」



っ……。


嘘……トイレで確認した時はそんな事なかったのに。


桐生さんの顔を見てホッとしたのかな?



「桐生さん……」

「何だ」

「桐生さんは……悪い人、なの……?」



私の顔を静かに見つめた後、ふっと口元を緩める桐生さん。


どうしていつもそんなに余裕でいられるの?


私はいつもこんなに焦ってるのに……。



「どう思う?」

「……悪い人だなんて思わない……思いたくない」

「そうか、お前は可愛いな」



いつもそうやってはぐらかす。


でもそんな桐生さんが好き。




< 59 / 423 >

この作品をシェア

pagetop