魅惑の果実
店長が持ってきてくれた烏龍茶を飲み干し、少し酔いがさめてきた。



「今日の桐生さん変」

「何だ、突然」

「だっていつもほど意地悪じゃない」

「虐めてほしいのか?」

「そうじゃないけど……調子狂う」



ワインを飲み終えブランデーのロックを飲んでいる桐生さん。


グラスの中の氷が溶け、カランっと音を立てる。



「今日は大切な人の命日だった……お前に気付かれるなんて、俺もまだまだだな」

「大切な人って……女の人?」

「あぁ」



聞かなきゃ良かった。


そばにいなくても、桐生さんが心を乱すほどまだ想われてる。


もうこの世にいない知らない女性に嫉妬してしまう。


ねぇ桐生さん、淋しいの?


心の隙間を埋めるなら誰でもいいの?



「この後の予定は?」

「特に決めていない」

「じゃあアフター行こうよ!!」

「子供は早く帰って寝ろ」



何よ。


子供扱いしなくたっていいじゃん。



「じゃあ小西さんのアフターに行くからいいよ。 っ!?」



突然顎を掴み上げられ、ドキッとした。


すぐそばまできている桐生さんの顔。


桐生さんの目から視線を反らせなかった。





< 62 / 423 >

この作品をシェア

pagetop