魅惑の果実
ソファーに座ると、桐生さんが薬箱を開いた。



「本当に自分で手当てするから大丈夫」

「変なところで強情な奴だな。 いいから顔をよく見せろ」

「…………」



このままじゃ埒が明かないと思い、私が折れた。


髪の毛を耳に掛け、顔を見せた。



「いっ……」

「直ぐ終わる」



消毒液がしみる。


擦り傷なんてつくったの久しぶり。



「何でお前だけこんなに傷だらけなんだ」

「え?」

「他の女たちは無傷だったと聞いた」

「……澪っていう女の子が連れて行かれそうになって、小西さんの足にしがみついたら蹴り飛ばされた」

「バカな事をしたな」



そう言われても仕方が無い。


初対面の女の子を庇う義理なんて私には無かったんだもん。


でもそうしたかった。



「後悔してないからいい」

「早死にするタイプだな」

「煩いなぁ。 私が早死にしようがどうなろうが、桐生さんには関係ないじゃん」



ついこういうことを言ってしまう。


また子供みたいな事をいうなとか言われるんだろうな。



「早死にされては困る」

「……え? 今のどういう意……」

「終わったぞ。 その通路を行った突き当たり左に客室がある。 そこのベッドを使え」



そう言うと桐生さんはシャワールームの方へ行ってしまった。


ちょっと……マジで今のどういう意味!?





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