魅惑の果実
モヤモヤした気持ちのまま言われた部屋に入った。


客室も豪華……ホテルみたい。


ダブルベッドにお洒落なスタンドライト。


下手なホテルよりホテルっぽいかも。



「うわ……何、この寝心地の良さ……」



桐生さん自身もとてもハイレベルな人だと思うけど、部屋も負けず劣らずって感じ。


目をつぶるが、眠れる気がしない。


色々あって疲れてる筈なのに何で?


それに、今日はダメだな……こうして一人で包まってると小さかった頃を思い出す。


いつもひとりぼっちで泣いてた時のこと。


私が小さい頃に母は家を出て行った。


大きくなって知った事だけど、元々政略結婚だったらしく、もう父といることが限界だったんだろう。


今でも最後に母に抱きしめられた時のことを覚えている。


その日は土砂降りで、淡いピンク色の傘をさした母の後ろ姿が印象に残っている。


どうして、私を一緒に連れて行ってくれなかったの?


その思いは未だに薄れない。


その数年後に父は再婚した。


その女には私よりも二つ下の娘がいて、どうやら父との間に出来た子供のようだ。


つまり私とその子は異母兄弟。





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