懐古語り
懐古語り
「──────女二宮は日に日に彼女に似ていくよ。本当に素晴らしい子を遺してくれたよ…性格は似ても似つかないがね」
そう言って懐かしむように、どこか寂しげに笑う兄である帝を少し羨ましいとも哀れだとも思う。
帝はそれこそ、溺愛する女二宮の母である今は亡き女御を一途に愛し続けていた。
本当に素晴らしい女性だった。
頭が切れ、教養もあり芸事にも優れていたと聞く。そして何よりたいそう美しかった。
「しかし、帝。帝には他にも御子がおられましょう。第一に女二宮の同腹の子が二人も。あまり差をつけられますな」
「式部卿、実の兄をもう少し信用しておくれよ。私は子は皆大切に思っているよ」
少し責めた風な口ぶりの式部卿の宮に帝は苦笑する。
「見た目こそそう似てはいないが…女一宮は女御そのものだ」
亡き女御には三人の子がいた。
女一宮、女二宮、そして一宮を産み落としたとき儚くなった。
女二宮と一宮は内裏で過ごしている。当人等に対して意思は無いことと、帝が離したがらないことからだろう。ただ、女一宮だけが女御の里で暮らしている。
その女一宮に、式部卿の妻は仕えていた。
驚くべき若さで任命された式部卿の宮の正妻が宮仕えと、首を捻る者も多いが妻は亡き女御をとても慕っていた。
そして、何より式部卿と妻の仲を取りなしてくれたのが女御である。
その恩ある女御の遺児を大切に思うのは当たり前だろう。
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