懐古語り




兄が夢中になるひとだ安易に他人になびかないだろう、心の片隅で欠片ほど残っていた淡い期待も高揚していた体温もすっと消えていく。



第一にこのひとに自分は情け無い姿を見せてばかりで、何もかも完璧で大人な兄に適うはずがないのだ。



何をひとりで思い上がっているのか、滑稽だな。



「女御が躓いた時の事を宮が大層心配しているようだと聞いて、女御もお腹の子も心配ないと直接伝えたいと文を届けたんだよ。本当にありがとう」



「見ての通りわたくしは勿論、お腹の子も無事で毎日健やかに過ごしております。宮様のお心遣い本当に心に染みます、ありがとうございます」



「宮も立派になって、帝も亡き母も安心だろうね」




仲むつまじく微笑み合う二人も、二人の優しい眼差しも今は自分がより惨めになるだけだった。




「いえ、女御様の身を案じるのは当然・・・当たり前いや、元はとい「この子が生まれてもまた、よろしくお願いしますね」




「っ女御様!」




せめて真実だけでも話して、女御にも兄にも謝りたい。情け無い私に出来ることはもはやそれだけしかない。それすらもさせてはくれないのだろうか。




女御からの返事「貴方は愛する人の弟」そう言われてる気しかしない。



顔を歪めた三宮に東宮は静かに口を開いた。




「宮、女御から聞いたよ。女御が何故躓いたか」




「え」




厳しい顔とも優しい顔とも違う兄の顔。









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