懐古語り
「少し外に行ってきますね、さあ宮」
女御にそう声をかけると、東宮は情け無い顔をして座している弟をひいて庭へと出て行った。
東宮のあとをとぼとぼと着いていく三宮の背中は小さく、立派になったとは言ったもののやはりまだまだ幼い弟である。
東宮は眉を下げてくすりと笑うと立ち止まり、三宮が隣に並んだのを確認すると口を開いた。
「女御から全て聞いたから、何故躓いた知っている。そして、何故そういう事をしたかも大体予想はつく」
三宮の肩が微かに揺れる。
「・・・でも、気持ちは分かるかな」
そう言って苦笑する兄を流石に怪訝な顔で弟は見上げる。
成人した女性を、それも東宮に入内した女御の顔を好奇心から盗み見ようと接触した男の気持ちが分かるという。普通の男ではない、当人であるというのに。
何を言い出すんだこの兄はとでも言いたげな弟に、兄は大真面目に答える。
「でもそうだろう?絶世の美女との噂の姫君だよ、ひとめ見たいと思うのは当然だよ」
「まぁ、流石に入内した姫君にそれを実行に移す貴好も凄いけどね」
何をぼけぼけと言っているのか、だが兄は私には到底出来ない、全く度胸の据わった弟だよと心から絶賛しているようだ。
「・・・はぁ」
「でも、彼女は私に入内したんだ」
急にはっきりした口調になる兄に、貴好はもう一度兄の顔を見上た。
「私のところへ来たんだ」
もう一度私の目を見つめてしっかりと断言する兄に、やはり勝てないなとすとんと胸に落ちてきた。
「私たち兄弟はよく似ているから──────きっと、貴好も彼女の事を気にいってしまう。すぐにそう思った。何しろあの美貌だ、嫌いになる人はそういない」
「見た目ではありません」