懐古語り
見た目ではない、もちろん一瞬は見た目だったなにしろ元はそれが目当てだったのだから。
だが違う、見た目ではないのだ。
──────私は大丈夫ですから─────‥…
「うん」
凄く優しい兄の声だった。
「見た目ではないよね」
私を諭した顔とも兄の顔とも違う、愛しいひとを想う顔だった。
本当にこの人は・・・
「かなわないなぁ」
勉学も、人としても、あのひとをおもう気持ちも。
何をぬけぬけと言っているのかと思った。だが、東宮は本当に女御の事を思っているのだ。自分のところせ政治的に送り込まれた女御としてではなく、一人の女性として。
女御も権力ではない、東宮ではない、一人の男性として兄を思っているのだと思う。
「・・・だから、今回だけだよ?女御と直に合わせるのは」
まさに相思相愛。二人と会合したのは本当に僅かな時間だったが、それを見せつけるのには充分だった。
「それを決めるのは女御様です。なんたってワタシは東宮の実の弟なのですから」
だから、この想いが消えるまでこうして兄を妬きもきさせるくらいいいではないか、可愛い弟の我が儘である。
「た、貴好っ」
顔を真っ赤にして眉を吊り上げる兄より先に、女御のところへ戻り真っ先に伝えるのだ。
先日の詫びと、生まれてくる御子の事はお任せ下さいと。
まだまだ、子供で頼り無い私だが、きっと御子が大きくなるまでは立派になっていよう──────