懐古語り
もちろん、あくまでも表向きは兄を訪ねる形である。女御は偶然にもその場に居合わせただけ。それが通じるほど、普段から兄と三宮の仲は良かった。
仲は良かったのだが・・・これは、どういった事であろうか。顔をあげてから数を幾つ数えたであろうか、未だに三宮の思考は兄のそれに追いついてはいなかった。
いつもの様柔らかく微笑んでいる兄の隣には当然の様に女御が腰を落ち着かせていた。
私をここへ呼んだのは兄と女御なのだから、女御がこの場に来ることはもちろん分かっていた。だが、それは当然御簾か几帳越しであろうと予想していたし、女房も控えているものだと思っていた。
「急なお誘いにわざわざ足を運んで頂きありがとうございます」
しかし女御は扇を添えているだけそれはおろか、御自分で声をかけてくれているのだ。|
逢いたいと焦がれていた女性が、兄の愛する女性が、東宮の女御というお方がこうまで心を尽くしてくれて嬉しくない男がいるだろうか。
嬉しい、まるで天にも登る気持ちと言っても過言ではない。しかし、それよりも驚きの方が大きかった。
気の利いた返しも出来ず、口をあけて、大きく見開いた両の目で間抜けに女御を見つめるしかできなかった。
「宮?」
微動だにしない三宮に東宮は首を傾げる。
「い、いえ、失礼をいたしました。して、御用の方は・・・」
頭を下げる三宮に、東宮と女御は微笑み合うと弟である三宮を優しく見つめた。
─────あぁ、だから女御は私に直に会ってくれたのだ。
気の利いた返しも出来ない、成人したといっても未だ数えで十三の子供だから。
兄の保護対象である弟だから。