しあわせだ。あえてよかった。だいすきだ。
多くの他人たちはおそらく自分を、善良な存在だと見なしていると浩平は思っている。そうありたいと願っていたし、そうあることで自分自身を穏やかにすることができた。
「しっかり者」の「頼れる」人間でいられるかどうか。幼い時から俯瞰視点で自分を見てきた浩平は、結果出来上がった人間性と周囲の安定に疑いを持っているわけではない。
それでも、一度知ってしまった視点を、浩平は忘れられなかった。常に自分が自分を監視している不安と、「善良な存在」でなくなってしまう瞬間への恐れがあった。
目の前の体温は、浩平を求めている。浩平という人間で満たされている。
そんな実体のない事実を、メイは具現化するのが巧かった。