しあわせだ。あえてよかった。だいすきだ。
「それは、完全にヤキモチってやつですよ。メイちゃん」
店員が注文を繰り返すのを聞かないハルカが発した言葉に、メイは「山・川」の合言葉を言うようにサラリと答えた。
「タロちゃんは、兄ちゃんみたいなもんだし。好きとかじゃないんだけどさあ」
「あ、出たよ。メイの『好きじゃないんだけどさ』!」
メイの作った困り顔を完全に看破したハルカが大きな声で一笑いしてメイの言葉を的確に捉えてみせた。仕方なしに注文繰り返しの義務を終えた店員が、そそくさとバックヤードに消えていった。
「『けどさ』、何よ? ハルちゃんに言ってごらん、メイ」
メイはいつもそうだった。
田口浩平への愛情を自ら散々語った後で、聞いてもいないのに「好きじゃない」と言った。あくまでも兄貴分である浩平と自分の仲の良さは正当だと主張するように、自分に言い聞かせているようにもハルカには思えた。
それは、おそらくメイ自身だって理解っていた。
「―――タロちゃんの、いちばんの後輩で居たいだけだよ。」
メイはいつもこうだった。