しあわせだ。あえてよかった。だいすきだ。
いいこいいこ


******


間の抜けた電子音と共に画面に表示されるメッセージ。「田口浩平」の文字に、丁度校舎の前に自転車を停めたメイは携帯の画面を片手で操作しながら前髪を直した。



メイいまがっこ?

ぱそこん使えん

メイたすけてー

たすけてー

メイー



ぽろん、ぽろん、ぽろん、ぽろん。
浩平がメイの名前を呼ぶように、メッセージが次々と現れる。ついには、浩平が意味のわからないスタンプ画像を連打し始める。メイが返事しようとして編集画面を開くたび、新しい浩平の受信がそれを邪魔した。
思わず頬がゆるむ。

返信は諦め、エレベーターに乗り込んだ。言語学のフロアは3階。多くない荷物を持ち直し、エレベーターの中の鏡に向かってメイはまた前髪に触れた。

携帯が浩平のスタンプを受信したことを、今も躍起になってメイに知らせている。店員が注文を繰り返す声は聞かないくせに、この感情のない受信音の繰り返しを、メイは聞いていないような顔をして聞いていた。

田口浩平がメイに向ける何かを嫌だと思ったことは、メイにはなかった。


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