しあわせだ。あえてよかった。だいすきだ。
にっと口角をあげたメイ。テンポの良い曲の小節間を埋めるようなタイミングで、浩平も笑った。次の拍で、パソコンの前にメイは迷いなく腰をおとした。浩平がリーチの長い腕を伸ばして連れてきた椅子に吸い込まれたメイが、矢印を操り始める。
「なんかさ。このページの余白が印刷すると左にズレるわけです、メイさん」
「浩平さんこれ前も言ってたじゃん。この上んとこ、編集ってやつ。おして、いろいろするの」
そーだっけ、と言いながらディスプレイを覗く浩平の隣で、メイはやはり何でもないような顔を作り続けてざっくりと説明した。もっと丁寧な説明は出来るのだろうが、自覚があるのかないのかわざとそうしない。
こうして浩平の助けになることが、メイを満たした。浩平は小さく息をつくと、椅子の背にもたれきって伸びをした。
「さんきゅ。さすが俺の一番弟子。助かる」
「うん。まぁ、弟子だからね」
確かめるようなやりとりを終え、いつも浩平はメイの頭にぽふと手のひらをのせた。「撫でる」というよりも軽いそれがメイはとても好きだった。