こんな能力(ちから)なんていらなかった
元は鞍馬山を住処にする烏天狗の流。
天狗や烏天狗は怖い伝承が多く残っているが、実際はそんなことない。
優羽からすれば、大天狗を筆頭に陽気な酒好きなおじさん達だ。
たまに仕事の手助けしたり、妖の統率に力を貸してくれたりと何かと気にかけてくれている。
その中でも特に流はよくしてくれる。
だとしても住処から遠い東京について来てもらうのは忍びなかったため、一度は申し出を断ったのだが結局ついてきてしまった。
「せめてパニックの原因だけでも分かればなぁ……」
いつもそう思う。
だが、それはきっと自分の無くした記憶のなかにあるのだろう。
だから、取り戻さなければいけないのだ。
流にこれ以上迷惑をかけないためにも。
一刻も早く、自分の記憶を——
たたたたた……
リビングの方から近付いてくる足音に気が付いた優羽は顔をあげた。
「優羽……もう平気?」
僅かにあいていた隙間から奈々が顔を出す。
「もう平気、おいで奈々」
手招きするとベッドの上に飛び乗る奈々。
その姿はさっきと違ってえんじ色の猫だ。
優羽の膝の上で可愛らしくにゃぁと鳴く奈々の喉を撫でる。
満足したのか奈々は膝から飛び降りると、人間の女の子の姿に戻った。