こんな能力(ちから)なんていらなかった
「早くしないとご飯冷めちゃうよ?」
「撫でろってやったのは奈々のくせに?」
笑った奈々の目が少しだけ光った。
「そういえばね、優羽のことかっこいい男の子が運んできたの。……あれ彼氏?」
思い当たるのは一人しかいない。
——紫音だ。
「紫音って言うの?」
「うん」
「かっこいい彼氏だね」
その時、脳裏に黒髪の女の子の姿が浮かんだ。
真っ白な肌に黒い大きな瞳と長い髪が映えていた、とても可愛らしい女の子。紫音の隣にいても違和感なかった。
その子の顔を思い出した瞬間、心臓が嫌な音を立てる。
大丈夫、大丈夫、大丈夫……。
胸を押さえる姿に奈々は不安そうな顔になる。
「……流呼んだ方がいい?」
「大丈夫、だよ」
深く息を吸い込む。
まだ心臓は少し慌ただしいけど大丈夫。
それにこれはきっと発作じゃない。
「紫音……は彼氏じゃないよ」
そう言った時、心臓が軋んだ。
けれどその痛みには気付かないふりをした。
「行こっか?」
「……うん」
奈々手を掴み優羽は部屋を出る。
奈々が心配そうな顔をしていたのには気が付かなかった。