こんな能力(ちから)なんていらなかった
***
「長かったぁー……」
優羽は自分の部屋へ着くなりベッドに倒れこんだ。
「どしたの?」
奈々が様子を見に来たのか部屋に入ってくる。
「転校生が私のこと知ってたんだよね……」
奈々のことを抱き上げながら思い出す。
今日の地獄のような時間を。
行くところ行くところに葵が着いてくるもんだから、いつ発作が起きるかとドキドキもんだった。
なんとか今日は切り抜けられたがこれが毎日続くことを考えただけで胃が痛む。
「いい子なんだけどね……」
髪の毛がなぁー。
それだけが唯一最大のネックだった。
「まぁ、頑張れ。もしかしたら記憶への手掛かりになるかもよ?」
「そうなんだよねぇ……」
だが、夢の中の少女そのままの黒髪に優羽の心は浮上してくることはなかった。
しかも、だ。
電車に乗ってから確認した携帯には、メールが一通届いていた。
紫音からのメールだった。
一瞬上がった気持ちがどん底に突き落とされるまで一秒もかからなかった。
そこには『ごめん、当分会えない』としか書かれていなかったのだ。
「忙しいのかなぁ……」
優羽の呟きに猫の姿になった奈々は返事することなくくわっと欠伸をしただけだった。