こんな能力(ちから)なんていらなかった



「俺から逃げるとか……優羽の分際でいい度胸だな?」


 顔と言葉が一致しない青年に対し優羽は冷や汗を垂らす。


やってもうた……。


 何故か見知らぬ青年に対しそう思うほど青年が纏うオーラは恐ろしいものだった。

 そんな青年にちょっと付き合えと言われてしまっては首を縦に降ることしか出来なかった。


 そして言われるままに着いてった優羽は、気が付けば喫茶店で青年と向かい合わせに座っていた。
 青年が優雅にメニューを見る前で優羽はダラダラと冷や汗を流す。

 値段があり得なくて。


——普通のエスプレッソ1200円って何!?


 今すぐこの店から飛び出したくなる程の値段だ。新手の嫌がらせか何かだろうか。


「決まった?」

「いや——」


 まだです。と言う前に青年が手を挙げてウェイターを呼ぶ。


いやって言ってんだろうが!!!


 青年の行動に、はーんと開きそうになった顎を手で抑える。


 そんなことしてる間にウェイターが注文を聞きに来る。
 こうなってはもう腹をくくるしかない。
 恥ずかしい、……とんでもなく恥ずかしいが!

 「お冷やを」と頼む以外他に道はない。


……だって!
今日は財布に500円しか入ってない——!!


 そんな状況下において何かを注文出来るわけなかった。

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