こんな能力(ちから)なんていらなかった



「葵、目あく?」

「……うん」


 目には熱湯がかかっていなかったことに一先ず安心し、店員に裏へ連れて行って貰えるように頼む。


「……あ、こちらです!」


 慌てる店員の後ろを早歩きでついていく。

 その背中に仁緒の叫び声が飛んでくる。


「——何でそんな人で無し助けんの!?」


 優羽は立ち止まると目だけを仁緒に向けた。



 ——その目からは怒り以外の感情が読み取れなかった。



「!」


 それだけで静かになった仁緒に、


「もう二度と顔を見せるな」


 とだけ言って優羽は再び歩き出した。




「——大丈夫?」

「なんとか……」


 そう言って手を除けた葵の顔には目立った跡は見られなかった。


「よかった……とりあえず冷やしておこうか?」

「……うん」


 店員さんに頼んで氷を持ってきて貰えるように頼む。
 そして人がいなくなったその合間に優羽は葵に向き直った。


「ちょっと目閉じて?」

「うん」


 素直に従った葵の顔に手を添える。

 そして自分の能力を少しずつ分け与えてゆく。
 すると、少しあった火傷もゆっくりと小さくなっていき、数秒後には跡形も無くなっていた。


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